ドイツワインコラム No.4

現在、ドイツのぶどう畑の約9%がオーガニックを実践しています。オーガニック栽培を行っているぶどう畑の栽培面積は、10年間でじつに2倍以上の伸びを見せているのです。

ヨーロッパのなかでも環境先進国として知られるドイツ。ドイツでは、環境に配慮したぶどう栽培がスタンダードとなっています。東日本大震災で福島の原発事故が報じられたあと、いち早く脱原発を決めたのを思い出す人も多いことでしょう。

高度経済成長と工業化が進んだ1970年代は、ドイツも大気汚染などの公害、環境破壊が問題視された時代でした。そういったなかで、ワインづくりにおいても有機農法が注目を集めていくようになります。

1985年には、ビオを実践していた生産者たちがエコヴィンEcovinという組織を発足。現在は238生産者(2018年)が所属する、世界最大級のオーガニックワイナリー機関となっています。

エコヴィンはドイツのワイン生産地域各地に支部があり、ぶどうの栽培法や醸造方法、ラベル表記などについても、細やかに規定を設けていました。のちにEU欧州連合がビオワインの認定をするとき、エコヴィンの多くの基準を採用したといわれるほどです。

そのエコヴィンの本部は、ドイツ南西部に位置するラインヘッセン地方にあります。ドイツのビオの畑の3分の2は、このラインヘッセンも位置するラインラント・ファルツ連邦州にあるのです。比較的なだらかな平地で降水量が少なく、年間の日照時間が長い温暖な地。そのためカビが繁殖しにくく、病気が少なく、ビオワインを造るには適した地といえます。

一方、銘醸地とされるワイン産地モーゼルは、なかなかビオが普及しませんでした。モーゼル川沿いの畑の約4割は斜度30℃を越える急斜面であり、細やかな畑作業を必要とするビオ栽培が難しかったからです。それでも近年は意欲的な生産者が少しずつ増えてきています。

ドイツでとりわけビオが注目されるようになったのは、2000年頃に起きた狂牛病や鳥インフルエンザにより食の安全性が問題視されるようになってからです。ワインはもちろん野菜、肉類、牛乳、卵にいたるまで、食すべてにおいて幅広くビオブームが巻き起こりました。

ドイツは現在、農業全体で有機栽培が盛んに行われています。ワイン生産者たちも、そういった農法をぶどう栽培に取り入れてきました。

そのひとつが、人工フェロモンを使った蛾の駆除です。オスの蛾はメスのフェロモンの匂いをたどりながら移動します。人工的に合成したフェロモンをカプセルなどに入れて畑に撒いておくと、オスはどれが本物の匂いかわからずに混乱してメスを探し出すことができません。その結果、交尾ができず、害虫の発生を抑えることができるのです。

また最近、有機栽培やビオを実践しようとする生産者は、ピーヴィーと呼ばれるぶどう品種を選ぶ傾向にあります。ピーヴィーはドイツの研究所が品種をかけ合わせて新たに生み出したぶどう品種で、真菌病に耐性があるので農薬も必要最小限ですみます。

ピーヴィーのなかでもっとも有名なのが赤用ぶどう品種のレゲントです。チェリーやスグリの香りのする濃い赤ワインなので、ジビエや子羊との相性も抜群です。白ワイン用のぶどう品種ヨハニーターやソラリスも近年は人気となっています。

とりわけワインづくりでは2003年頃から、ビオよりさらに一歩進んだビオディナミという農法を採用する生産者も増えてきています。ビオディナミとは、月や星といった天体の運行とともに畑仕事や醸造をおこなう方法です。

その認証団体Demeterデメター の本部もドイツにあり、ドイツの46醸造所(2017年2月現在)が加盟しています。さらにこの10年ほどは亜硫酸の添加量をきわめて少なくしたナチュラルワインやオレンジワインに取り組む実験的な生産者も登場し、注目を集めています。

ワインの生産者がビオやビオディナミをおこなう目的は、できる限り化学合成農薬や化学合成肥料の使用を避けること。それにより畑に多くの動植物や昆虫が存在する生物多様性の状態になると、土壌にはさまざまな栄養素が蓄えられるので、ぶどうの樹も健全に育ちます。

ワインづくりをより誇り高い仕事として次世代へと引き継いでいくために、ドイツワインの生産者たちの挑戦は今日も続いています。

(文:鳥海美奈子)


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